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インド(スピティ編) > 第7話 自己主張もほどほどに(サルチュ-キーロン) [概要: 私、欧米人を嫌いになってしまったかも。 ] 第7話 自己主張もほどほどに(サルチュ-キーロン)
ギシギシとベッドがきしむ音が耳に入った。ついで、ぼそぼそと聞き取れないくらいの話し声。 同じテントに宿泊していたコリア娘3人組だ。私を起こさないように気を使って、荷物をまとめているみたい。 昨晩、テント村の支配人は、チケットの種別から部屋を割り振っていった。 食事を用意すべき人とそうでない人をテントで区分けするらしい。 Kさんは宿泊料、食事込みの1100ルピーのチケットを購入していたのに対し、 Nさんと私は800ルピーしか払っていなかった。まず食事付きのKさんだけが支配人に連れて行かれる。 支配人は順番に目に付いた人からテントを割り振って行き、最終的に私は3人のコリア娘と取り残された。 「テントの値段はいくらなの?」と彼女らに聞かれたことで、テントが有料だったと知る。 宿泊料を徴収に来た支配人に「1泊110ルピー」と言われた彼女たちは、「高い!!」と言って荷物をまとめて出ていった。 ・・・高いかなぁ?そりゃ、確かにシャワーもないし、ドミみたいなもんだけどさ。 ここが山の上ってことを考えると妥当な線だと思うけど・・・。 夜の7時を過ぎる頃、私の軽装ではどうしようもないくらいにあたりは冷え込んで来た。 持っている服を全て着込んでも耐えられる寒さではなく、他のベッドの毛布までひっぺがして寝てしまうことにする。 食事が出ているテントの方からは笑い声とかきこえんし、まったく、何でこんなに1人でみじめなのさ。 せめてNさんと一緒のテントが良かったよ、私は。 しばらくしてうとうととし始めた頃、突然、テントの入り口を開けるがさがさっと言う音がして飛び起きた。 「まさか、夜這い?それとも痴漢?でも、若いインド男はバスにいなかったぞ!」 1人でいると心がすさむ。勝手にインド男を悪者にしてはいけない。 入り口に立っているのは、先ほど出ていった韓国娘。 「今までバスの中にいたけど寒くてだめー」などと、きゃいきゃい言いながら開いているベッドに潜り込んでいる。 「バスの中って・・・そりゃーいくら何でも寒いでしょ。あなたのシュラフも夏用でしょ?」 悪態つきつつも、1人じゃなくなったことがちょっと嬉しい私。 そして朝になって、彼女たちのたてる物音で目が覚めてしまった。荷物をまとめて出ていこうとしているみたい。 「何処行くの?」 「バスに戻る」 あぁ~、そういうことか~。 どうやら、彼女たち、昨晩は無断でこのテントに泊まったらしい。 夜中にこっそりやってきて、ゆっくり眠り(実際には高山病で頭が痛くて眠れなかったと言っていたが)、朝、支配人が起き出す前にバスに戻ろうとしている。 うーん、それってどうなの?ってあたしは思うぞ。 「俺らって、なんだかんだいって、彼らにしてみたらずっと金持ちじゃないっすか。 外国からわざわざやって来てるんだし。 そういう立場にいるのに、生活のためにまじめに商売している彼らを騙すってなんか気分悪いっすよね」 Nさんの台詞である。 そうだ!その通りだ。私が感じた違和感をNさんは代弁してくれた。 110ルピーを「高い!」と言った韓国人と、我々日本人にとっての110ルピーは違うのかもしれないけど、 でも、それ以上にインド人(チベタンだったような気もする)の110ルピーとは重みが違う。 ましてやこの人達って夏の間、このハイウェイが雪に埋もれてない今のこの時しか稼げない。そゆことちょっとは考えた方がよいと思います。 だいたい彼女たちは学生じゃなくて社会人だったんだよねぇ。少しはお金持ってると思うんだけど。
今になって考えると、崖崩れの情報を入手していながらここまで来ちゃったのは、この宿泊施設までこないとバス代を全額リファンドしなければならないとか、サルチュのテント村に誰も泊まらなくてテント村の収入が減るとか、別の理由もあったのだなと思う。 出発できないのは、やはりこの先の崖崩れの情報入手に手間取っているからみたいだ。 私は暇に任せてNさんと二人ぶらぶらしていた。 周りの欧米人どもものんきに構えていたが、そのうち皆が不安に思い始めたのか、徐々に集まりだし、 不確かな情報を元に意見をまくしたて始める者が出てきた。 「どうやら、この先の崖崩れの復旧には5日かかるらしいよ。でも、たったの2㎞だ。 崩れた箇所までバスで行って、その先ちょっと歩こうよ。反対側にも同じ状況のバスが絶対来てるはずだ」 「出発が遅れちゃったから、さらに途中で1泊しないとだめらしいよ。 今日は崖崩れの箇所までいって、そこで一晩バスの中で寝ればいい。明日になったら歩いて越えれば大丈夫さ」 「レーには行ける!行ってみようよ」と周りの人間を味方に付けようという魂胆らしい。 私は軽く聞き流していたが、肝心のバスは9時を過ぎても動く気配ないんですけど・・・。 だいたい、バスの中で一晩は困るよ。これ以上着込む服を持っていないし、何枚もの毛布にくるまっても寒かったんだから・・・。 レーに行って見せるぜ組は運転手達を説き伏せ、 とりあえずバスを出発させた。 が、ほんの2,3分くらい走ったところに、警察(軍?)のチェックポイントがありそこでストップをかけられる。 「ここから先の道は崖崩れで行けないよ。引き返せ」とかなんとか言ってるらしい。 「とりあえず、バーンまで連れてけっていうからさ」みたいなことを運転手が言ったんだろうか。 会話の内容がわかるインド人客の顔色がみるみるウチに変わっていった。 「なに言ってるんだ!今からバーンに行っても着くのは夜じゃないか! バーンは5000メートルもあるところなんだぞ!そんなところで一夜を明かしたら凍え死ぬ!」 「年寄りがたくさんいるんだ!瓦礫の上を歩いて山登りなんてできるわけないだろう!」 そう、インド人の乗客は年輩の人が多かった。彼の言っていることは正しい。 乗客の中では若手の部類に入る私だって、空気の薄い山道を登っていく自信はない! もっと若い韓国娘だって、ここサルチュの4000メートルちょっとの標高で高山病になりかかっているではないか。 そのインド人の反論が途切れたところで、レーに行きたいからみんなを丸め込んじゃおう組(さっきと名前違うぞ!)は、自分らのもくろみに反発されたことにキレた(関係ないが、この旅から帰国したら日本では17歳が切れて事件を起こしまくってた)。 「なに言ってるんだ!俺らはレーまでのバスチケットに800ルピーだしたんだ!こんななにもないところで引き返してたまるか!行きたくないならお前ら他のバスで帰れよ」 「なにぃー」 バスを降りて、警察と話していた運ちゃんに詰め寄るレー組。 インド人も降りて「引き返せ!」と訴える。 インド人達は外人はみんなレーに行こうとしていると思っているらしく、私らの方をも鬼のような形相でにらみつけ「てめぇら、人を殺す気か?!」って言ってる。 「おいおいおい。私ら日本人はレーには行かないよ」 Kさんがフォローを入れると、味方が増えてちょっと優越感を持ったのか、彼の熱弁はさらに続く。 「いいか、レーに行きたいと言ってるのはたったの9人だ。ほとんどの人が戻りたがってるんだ! たったの9人のワガママのために、危険な場所に行かなければならないなんておかしいじゃないか!」 結局、バスはもとのテント村に引き返した。しかし、そこで再びインド人とレー行きたい組の口論が始まった。 言ってることは同じ。「レーまでのバス料金をきちんと払っているんだから、そこまで連れていくのが運ちゃんたちの役目だろ?」っていうのと「崖崩れで行けないんだから、戻るよりしょうがないじゃないか」ってこと。 別行動すりゃ済むことなんだけど、両者ともこのバスを使いたいから譲らない。違うバスを使う方が、追加料金を払うはめになるからである。 レーに行きたいと言い張る西洋人の気持ちもわかる。 はるばると遠い国からレーに行くことを目的にしてやってきたんだもの。次にいつ来れるかわからないから、無理をしてでも行きたいんだろう。 だけどさ、行きたい行きたいって言い張ってるヤツらって、えらい重装備なのよ。 でっかいバックパックの中にはキャンプ道具もシュラフもテントも何もかも入ってる。昨日なんて自分らのテントを張って寝てたもん。 標高5000メートルの山でも寝泊まりできる装備を持ってるワケよ。崖崩れの道を歩けるトレッキングシューズを履いてるわけよ。(例に漏れず、インド人はチャッパルである) それに比べて、私もそうだけど、インド人のお年寄り達はかなり軽装。 1泊2日でレーに着くつもりの装備で、せいぜいウールのショールを持っている程度。 それを知ってて、「レーに行こう!」なんて言える根性が信じられない。死ねって言われてるのと一緒だってば。 それに、あんたらの方がインド人のおばあちゃんたちよりお金持ってるのはわかってるでしょ。 ほんの数百ルピーのために、ここまで勝手なこと言うか? よく、「日本人は曖昧だ」とか「すぐ丸め込めて騙される」とか言われたりするけど、 ああも勝手な人間に育ってしまうなら、私は自己主張のできないバカな日本人のままでいい。 なんか、すごく情けない人たちだなーって思った。 「俺らはもうつきあいきれないぜ」と通りがかったマナリ方面行きのローカルバスに乗りこんだ欧米人のカップル(Kさん曰く、英語の発音がオーストラリア系)につられて、 我々日本人3人はレー行きのバスを降り、マナリ方面へ引き返したのだった。
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