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インド(スピティ編) > 第14話 ダライラマ法王見参!(キー) [概要: いよいよカラチャクラフェスティバル開幕!] 第14話 ダライラマ法王見参!(キー)
煎餅布団に挟まれて起きるのは今日で3日目。ここんところ妙に目覚めがいい。 暑くもなく、寒くもない気候が快適な睡眠をもたらしてくれている。 辺りを見回すと、Nさん、ゴードン、クリスはまだ深い眠りについている。 そして、Kさんはすでにどこかへいってしまっていた。 布団から這い出し、テントの外へ出るとKさんにばったり。 「いよいよ今日だねぇ」 そう、今日は待ちに待ったカラチャクラのオープニングの日なのだった。 テント村に宿泊しているチベット人達はいつにも増して気合いが入りまくっている。 洗髪する人、体を洗う人がすごく多くないか?それもいつもよりもさらに念入りだ。 水道には近づける雰囲気ではない。今日はトイレの前の水道までもダメ。 水道の脇にはコンクリートで固められたちゃんとした用水路があった。 この用水路にはごくたまに調理に使った汚水や石鹸の泡が流れて来るが、その時を除けば綺麗なモノである。 だいたい、水道の水も用水路も水源は同じに決まってる。 「今日は、ここの水で顔を洗っちゃったよ」というKさんに倣うことにした。足下から水をすくうのは大変なので、Kさんにペットボトルに汲んだ水を少しずつ両手の中に注いで貰いながら顔を洗った。 しかし、「私はお母さんだから危ない橋は渡れないの」といって歯磨きもミネラルウォーターを使っていた 彼女がここで顔を洗ったというのはちょっと意外だった。 お互い、だいぶここの生活に慣れてきましたねぇ。
テントに戻ると、Nさん、Kさん共にすでに準備万端の様子。 「今日は、ダライラマさんに会うからぜーんぶ着替えちゃった」というKさん。 一瞬、「着替えないと失礼かなぁ?」と思いもしたが、3日も洗濯してない服をザックにしまい込む方がイヤなので着替えないことにする。それに、Nさんは相変わらず同じ格好をしていたし(でも、毎日顔と一緒に頭を洗っている彼の方が私より清潔)。 クリスとゴードンに先に行くことを告げ、3人でテントを後にした。 「もしかして、あの急な坂道を登って行くつもり?」 「大丈夫ですよ、そんなに急でもないですよ。それに今日は人がいっぱいだから、詰まってゆっくり歩きますよ」 やっぱり、Nさんはこの前もこの獣道を登っていったのか。 人がいっぱいということは、逆に言うと、とろとろ歩いていると後ろの人が迷惑をするということである。 速度を落とさないように必至で登って行ったが、高地滞在もすでに5日目だが、でもまだちょっときつい。 この急坂登っているだけでも大変なのに、後ろから追いついてきたチベット人の若者はKさんにやたらと話しかけている。 「君たちは日本人かい?僕らはダラムサラから来たんだよ。何日までいるの?明日帰っちゃうのかー。 僕らは最終日の16日までいるつもりだよ」 「英語はダラムサラの学校で憶えたんだ」 彼の格好は一見普通だが、シャツにはしわもなく、ジーンズの足下はびしっと革靴。これは彼にとっての一張羅だろう。 だらけた服装をしているのは外人観光客だけだ。 それにしても、普段ダライラマ法王と同じ町に住んでいる人まで、こんな山奥までやってくるなんて。 よっぽど特別な儀式なんだなぁ。カラチャクラって。 やっとの思いで上までたどり着くと、一昨日とはうって変わり、ものすごい人で溢れかえっていた。 この間、中庭に入るのに通ったあのどうでも良さそうな金属探知器。その枠の前に男女別になってずらーっと人が並んでいる。 こころなしか男性の列の方が進むのが早い。先ほどのダラムサラの青年は列に並んでも話しかけ続けていたが、彼との距離はどんどん離れていき、そのうち後ろ姿も確認できなくなってしまった。 女性の方がスカートの中とか、鞄とか銃器を隠し持つ場所はいくらでもある。女性の検査が念入りなのはしょうがないことだ。男は軽装だもんなー。 中に入ってみると、一昨日踊りをやっていた小屋の横にででん!と玉座が準備されていた。おお、これは法王がお座りになられるのだな! そして、玉座に向かって左側にお坊さん専用の傍聴席。橙とえんじの縞模様のをした大きな布で日陰が形成されている。 外人用の通訳のいる席もあると聞いたが、それが何処なのかはちょっとわからない。 主要な外国語での通訳がいるほか、英語の場合はラジオを貸し出しており、同時通訳が聞けたらしい。 国際会議みたいで、完璧お祭り騒ぎと化している。 なんでも、日本の某旅行社を含めて「カラチャクラを見ようツアー」(←勝手に命名)なんてものも来ていたらしいね。 一般の人々は木陰など、わずかに形成されている日陰から順に腰を下ろしており、玉座の目の前の言ってみればアリーナ席は意外なことにガラガラであった。「なるべく間近で顔を拝見したい」などという、俗っぽい気持ちはあまりないのだろうか?説法を聞くことこそが重要なことであって、そんな事はどうでもいいのかもしれない。 我々は当然のように台座の目の前に陣取った。だって、どうせなら間近でお顔を拝見したいの。ああ、俗っぽい。 我々の腰掛けたその横に、日本人らしき青年が座っているのが目に付いた。 脱色してちょっと痛んだ明るい茶色の髪。腕に、首にインドで買ったというアクセサリーをじゃらじゃらとぶら下げている。 いかにも今時の若者という風体で、おおよそインドのこんな山奥のチベット圏なんていう地味なところに来そうなタイプではない。 「マナリでぶらぶらしてたら、ダライラマがいるって聞いたんで。 とりあえず、インドではリシュケシュでヨガの修行して、ガンジス川で沐浴して、あとはサメルキャハリが目的なんすよ」 それをいうならキャメルサファリだろう・・・。 なんかこういうタイプの子って苦手だ。 レー行きのバスで出会ったのがKさんじゃなくて、Nさんじゃなくて彼だったら? たぶん私は、バスを降りた途端に「じゃ、元気でね」とそそくさと逃げるように立ち去ったハズだ。 彼もまたインドの独特の雰囲気に魅了されている日本人のひとりであるのは間違いない。 でも、こういうタイプとはなにを話しても空回りするのは明らかだ。 「Nさんて落ちついてるじゃない?しゃべり過ぎるわけでなく、かといっておとなしいワケでもない。 ああいうのがいいのよ」 Kさんの言っていたことを思い出す。彼とはまさに正反対のタイプだ。 ダライラマ法王が登場すると、ばしゃばしゃと写真を撮るだけとった彼。 暑いのはわかる。確かに法王のしゃべるチベット語の意味はわからない。 しかし、どうでもよさそうにさっさとその場を去っていくその態度は、見ていて気持ちがいいものではない。 自分も人のことをとやかく言えない立場であるのは百も承知だが、もうちょっと人々の信仰に敬意を表することができたらなぁと勝手に思っていた。 リシュケシュで修行して悟りでも開いてくれることを祈る! カラチャクラの開幕時間がせまるにつれて、会場はスピーチを聞きに来た人々で徐々に埋め尽くされていった。始めのころこそ周りから伝わってくる熱気と興奮に触発され気が高ぶっていたが、じりじりと照りつける太陽に徐々にエネルギーを奪われていっているのがわかる。 だんだん周りのみんなも無口になっている気がする。
ダライラマ法王は、人々に注目されていることなど、気づいてもいないかのように、ゆったりとしなやかに坂を降りてきた。 そして、バルコニーに作られた玉座に腰掛けると、にっこりと笑い、会場に向かって口を開いた。 <つづく>
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