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  [概要: 人が集まるところには芸人もやってくる。]

 第16話 テント村の大道芸人 (キー)


 説法が終わると、ダライラマは聴衆、そして壇上の僧侶に言葉をかけもと来た道を戻っていった。 それを合図にするかのように人々は三々五々散っていく。

 私はダライラマが上っていった坂道の下の壁に寄りかかり、その様子をぼーっと見ていた。 改めて思うけど本当にみんな今日はおしゃれだな~。 きらきらとした銀や金の刺繍の入った綺麗な服を着ている女性がいっぱい。女の気合いを感じる。

 だいたい"ダライラマさんにお会いするから"という理由だけじゃないんじゃないか? 日本の成人式と同じ、こういう時じゃないと正装する機会がないっていうのもあるんでは。 着飾っている自分を誰かに見て貰いたいとか(その誰かがダライラマなのかもしれないが)、 そういう気持ちがあるのも普通ですよね。 (そして、それは旅の最中に私が忘れている事だったりする)
興奮醒めやらぬ民衆
立ち話に花が咲く


 Nさんは今とても行動的。実は彼はカメラが趣味で、趣味を通り越して仕事に出来たらなぁなんていう微かな野望も胸に抱いている。だから、今のこの時、生き神様にお会いできて幸せ一杯の素敵な笑顔で、しかもめい一杯おしゃれした人たちで溢れている今が絶好の機会なのだ。気が付くと会場のあちこちでカメラを片手にうろうろしている彼が目に付く。

 さらにしばらく後、今度は彼はとある日本人女性と話していた。よし!ナンパしろっ!がんばれ!

 実は、この女性とは我々も一昨日出会っていた。ヒマラヤの強い日差しを避けるため赤い日傘を広げ、眼鏡と鍔の広い帽子を身につけたとても品の良さそうな人だった。

 「去年もここに二週間くらいいたんです。で、また今年も(笑)」

 スピティーが好きなんですよねぇっていう彼女の笑顔をみて、妙にほのぼの。男だったら惚れてたりして。
 謝さんといい、この彼女といい、スピティ好きの人のオーラって和む~。

 で、今、Nさんが彼女をナンパっていうのは、ほんとの意味でのナンパじゃなくてジープの同乗をお願いしている。 明日マナリまで戻るジープが高額で同乗者を探しているのである。

 「ジープには乗りたいんですよ。でも、もうお金がなくってバスにしか乗れないんです」

 ナンパ失敗!くそう。マナリまで3人で5000ルピーか。

 「マナリまで5000ルピーなら行ってもいいよ。だたし3人までそれ以上人が乗るなら行かない」

 相変わらず異様なまでに車をかわいがる。例のゴンパ巡りの時のドライバーの台詞だ。

 「そんな車こっちから願い下げだ!」と言いたいのをぐっとこらえ(・・・こらえてなかったかもしれないが)、何とか4人までを了承してもらう。 私はまだまだ旅程に余裕があったのだが、Nさん達の帰国日が迫っていた。だから車を確保しておく必要があったのだ。

 キーからマナリまで、ローカルバスだと値段は110ルピー。ただし所要時間が14時間もかかる。つまり、どんなに朝早く出発しても夕方のデリー行きのバスに乗り継げない。車でもぎりぎりのところである。

 私は時間には余裕がある物のこれ以上ここにとどまる気は全くなかった。だから、明日一緒にマナリまで下るつもり。

「しょうがないね。3人で帰るしかないね」

 そんな話をしながら我々はテント村への坂道を降りていった。

大道芸
 テント村にたどり着くと、この日は大道芸人が出ていた。
 こういうお祭りは稼ぎ時。芸をしながら旅する家族で、芸人は子供。7歳くらいの女の子とその弟らしい2歳くらいの男の子。そして司会進行をしながらはやし立てるお父さん。お母さんは太鼓叩いている。

 女の子は、か細い身体で、ひらり、ひらりと軽やかにバック転をしながら会場をぐるりとまわる。 体の柔らかさをアピールするためか直径30センチ程の輪っかを2回くぐって見せる。 無表情でちっとも楽しそうではない。ただ、淡々と芸をこなしている姿が印象的だった。

 そして、女の子が何かするたびに父親が大声ではやし立てる。「どうだ!すごいだろう!」とでも言っているのだろうか?

 彼女の弟はさっきから泣き続けだ。芸をするのをいやがっているのにお父さんはそれを許さない。それも棒で「おい、ちゃんとやれ!」とけしかける。叩かれたくないのか、男の子は泣きわめきながらも輪っかをくぐり抜ける。
 正直に言うとそれは芸と言うにはあまりに見窄らしく、ちんけなものだった。 日本だったらこんなことにお金を払う人はいない。猿の方がもっとまともな芸をする。

 さらにその後、父親は男の子を縄で縛り付け、綱渡り用に渡してある綱にぶら下げた。 そして、遊園地の回旋塔の様にぶら下がった男の子をぐるぐると高速で回し始めた。
 うーん・・・これの何処が芸なのかが全くわからない。男の子は一層泣きわめき、それを見ていた周りの外国人は「クレイジー・・・」と顔をしかめている。

 その光景を見ていた私は思わず、「ああ、かわいそうだなぁ・・・」と呟いた。

「かわいそうって言ったらだめですよ。俺らがかわいそうっていったら彼らは一層みじめになる。 俺らはただ彼らの芸をこの目でしっかり見てやって、拍手してやらんと。」

 私はNさんのその言葉に驚き、ものすごくショックを受けた。私は彼らがこうやってお金を稼がなければならない現実など全く頭になかった。ただ、表面的に同情しているだけだ。
 私が無理矢理芸をさせる父親の姿に嫌悪感を抱いていた時もNさんは目を逸らすことなく彼らを見つめていた。 振り返ってみるとここまでの旅の間、彼の真摯で率直な発言には驚かされた。そしてそれはたいてい正しかった。

 この芸を見て、「素晴らしい!」と思っている人は1人もいないだろう。 たぶん、あの女の子も両親も自分たちが同情の目で見られているのをわかっている。でもきっと彼らにはこれしか生きる道がないのだ。

 芸のクライマックスは少女の綱渡りだった。端まで渡りきると頭の上に器を乗せ、渡りきっては乗せ、徐々に枚数を増やしてゆく。
 Nさんは、彼女の芸を笑顔で見守り、成功するたびに拍手を送っていた。
 私は彼女の勇姿を一枚だけ残す事にした。そして、ショーが終わったその後には、少女に差し出されたお皿に10ルピー札を一枚入れた。

 ところで余談ですが、芸の終了後、お母ちゃんは少女に集金係として会場を回らせたが、余り集まらなかったらしい。
 だから、ここぞとばかりに男の子にお盆を持たせ会場を回らせていたが(このときもまだ泣いていた)、ほとんどの人が男の子のお盆にはお金ではなくあめ玉を置いていった。
 世の中甘くはないな~。


- インド旅行記:インドの山の奥深く(ラダックはずれてスピティへ) 目次 -
プロローグ
第1話 けだるい彼との出会い
第2話 シヴァの祭りでメインバザールに行けない旅人
第3話 国民的スポーツはクリケットとカバディ
第4話 私もまだまだひよっこだな・・・。
 →【写真】オールドデリーの観光名所
第5話 マナリについたら雨だった・・・がーん
 →【余談】本当にでたインドの痴漢!ねぱり
第6話 断崖絶壁?を行く
 →【写真】インドの山道 (マナリ-サルチュ編)
第7話 自己主張もほどほどに
第8話 旅は道連れ。心は弾む。
 →【余談】インドのお札は日本製?!
第9話 そんなクリスに首ったけ
 →【写真】インドの山道 (マナリ-キー編)
第10話 風呂ナシ、飯ナシ、恥もナシ
 →【写真】カラチャクラフェスティバルのテント村
第11話 砂曼陀羅の儀式に法王現る。
第12話 ラルン、ダンカール、タボのゴンパ巡り(1)
 →【写真】ダンカールの写真館
第13話 ラルン、ダンカール、タボのゴンパ巡り(2)
第14話 ダライラマ法王見参!

第15話 幸せのオーラで世界が平和になるのだ
第16話 テント村の大道芸人
第17話 そして再び1人旅
第18話 英国調。なのに気分は温泉地
 →【余談】さらにインドの痴漢の話。今度はインド人
第19話 じじいのナンパに逃げまどうあたし
第20話 もーー、家族連れでも油断できないのか?
第21話 わんだふるアムリトサル!(その1)
 →【写真】スィクの聖地 黄金寺院
第22話 わんだふるアムリトサル!(その2)
 → 【写真】アムリトサルのローカル
第23話 何となくつなぎで寄ったデリーの1日
第24話 くりしゅなー・プレイス(その1)
第25話 くりしゅなー・プレイス(その2)
 →【写真】マトゥラーあれこれ
 →【余談】初めてインドでヒンディ映画を見た話
第26話 ナメてんのかぁ~!エアインディア!(1)
 →【写真】デリーの写真をちょこっとだけ
第27話 ナメてんのかぁ~!エアインディア!(2)
第28話 ナメてんのかぁ~!エアインディア!(3)
エピローグ

タグ:インド|カラチャクラ|キー|スピティ|大道芸人

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