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インド(スピティ編) > 第19話 じじいのナンパに逃げまどうあたし(シムラ) [概要: おじいさんにもしつこくつきまとわれ、怖かった~。] 第19話 じじいのナンパに逃げまどうあたし(シムラ)「チッリチキンっ!!」←そうとう食べたかったらしい あった、あった。チリチキン。1人だからせいぜいハーフよねぇ。あとはー、ダルとーチャパティーを二枚!よろしくねぇっっ。 注文をしたあと、心浮き立ちディナーのお出ましを待つ。店内にはワタシの他には1人、インド人の男性がいるだけ。まだ夕方の5時過ぎ。夕食にはチト早い。 先客のインド人男性は水をもらいに立ち上がったとき、ワタシの姿に気が付いた。そして、おもむろに「日本人?1人じゃ寂しいし、一緒に食べない?」みたいなことを言ってくる。 一見60歳くらいに見えるその男性。やせこけた体、浅黒い顔、そして、薄くなった頭。 もしかしたら見た目より若くて実際は40歳くらいなのかもしれない。 「あー・・・別にいいですよ」 特に断る理由もなかった。正直言って、何も考えていなかった。だが、だが、5分も経たないうちに後悔する事になってしまった。 まず、その英語。一体何処の出身なのかわからないが、さーっぱり何を言ってるのかがわからない。 ものすごいくぐもった話し方な上に巻き舌。標準的なインド英語インドリッシュみたいに、Rを読んでしまうとか、そういうレベルの話ではない。ごにょごにょごにょごにょ言うから口の動きで言葉を読む事もできない。
次に、その喰い方。 いくら仲のいい友達でも、正しく箸を持てない人や食べ方が汚い人と食事するとちょっと気分が萎える。 くちゃくちゃ音をたてて食べるなんて言語道断である。いらいらして飯がまずくなる。 親父が喰っていたのはタンドーリチキン。それもこれだけを注文したらしい。 "左手は不浄の手。右手の、しかも三本の指だけ、さらに第一関節から先だけを使って上手にご飯を食べる様を見ていると芸術のようである"なんて誰が言った! そんなインド人見たことないんですけど・・・。 両手のひらまで油でべとべとにしながら食べるだけなら、まあ、いいと思う。親父が不浄の左手を気にしないならどうってことない。 「タンドーリチキンひとつ食べてみなよ。おいしいから」と薦めるもんだから、 「じゃあ、チリチキン食べていいよ」と答えた。交換のつもりだったのである。 そこまではいいのだが、なんで勝手にワタシのチャパティー食べるの?勝手にダルを飲むの? そのダルのスプーンはワタシのスプーンだ!・・・一気に食欲が失せてしまった。この親父と間接キスなんて絶対イヤ。 「食事をしているとき、偶然友達が店に入って来るとするでしょ。 日本人はそこで、"ちょっと待ってて。すぐ食べ終わるから"って急いで食べるでしょう? でも、インド人は違います。"とりあえず、一緒にどう?"ってひとつのご飯を一緒に食べるよ。 それで足りなかったらあとでもう1人分の食事を追加するの」 こう、インド人に言われた事がある。でも、それとこれとを一緒にして貰っちゃ困る。 あまり親しくもないのに・・・って言うのもあるが、それ以前に食べたきゃ自分で頼めよ~。 終いには「なんかプレゼントする」「君はゲストだから飯をおごる」などとワケのわからない事を言い出す。 「別に欲しいモノなんてない。ご飯は自分で払う」って言えばすごい形相でにらみつけるし、 親父が追加で頼んだチャパティーはワタシの勘定に入ってんし、何なのよ一体。 「私は離婚してて、今1人なんだ。・・・君の住所を教えてくれ」 やなこった。 なんだかんだと言って、勘定は親父が払った。 が、その後マーケットに行ってなにかプレゼントを買うとうるさい。 いらないと言うと怒る。なんで怒るんだ(それは下心があるからである)! シムラに住んでいるという割にはシムラのマーケットの場所を知らない。 日本製だと自慢するボストンバックはどう考えてもばったもんアディダスである。 何から何まで嘘臭い。思わずご飯を一緒に食べるなんて迂闊だった・・・。 うまいご飯も一緒に食事をする人によってはメチャクチャまずくなるのだ。ホント。 「どうやって、親父と別れよう・・・ただ走って逃げると騒がれそうだし・・・」 ぐるぐる考えながら、親父と二人、マーケットまで坂を登る。 ところでシムラの町を歩いていてずっと思っていたのだが、ここにはオートリキシャが一台も走っていない。 この町は狭くて急な坂道が多く、日本でいえば尾道とか長崎みたいな感じ。 リキシャの貧弱なエンジンでは登っていくの大変だろうし、停車していられるかどうかも疑問である。 バイクなら自分の足で停めていられるけど、さすがにリキシャはムリでしょう。車重に耐えられない。 そもそもリキシャにサイドブレーキってあるのか?それ以前に坂道発進ができない気もするなぁ。 この坂でブレーキを外した瞬間、後ろ向きにどんどん滑り出して崖から落ちてしまいそうだ。 そして、リキシャも走れないこの急坂を登る親父の足取りはものすごく重かった。 やはり、相当年をとっているらしい(だからナンパとは思わなかったのだ)。 ふうふう言いながらやっとの思いでマーケットまで坂を上がっている。 シムラのマーケットは街と同じく小さくコンパクトにまとまっていた。 食料品、日用雑貨のお店が所狭しと並んでいる。籠いっぱいの山盛りスパイスが並んだ店、紅茶の店なんかはインドのお約束。観光客向けの店なんか一軒もなく、すごいすごい興味をそそられるのだが、1人じゃないんだよ・・・。 「何が欲しい?アクセサリー?サンダル?何でもいいよぉ・・・」 いらねぇー。 荷物を増やしたくないんだよぅ。サンダルで長時間歩くのは辛いんだよ。 そんなアクセサリーに興味なんてないんだよ。 だいたい、バックパック背負って、ひとりでインドをぶらぶらしている女がそんなモノは欲しいワケがない。 テキトウに断りつつ、すたすたと人混みを歩いていた。 気が付くと、耳にねっとりとまとわりつく親父の不快な声が聞こえてこない。 おそるおそる後ろを振り返ってみると、そこに親父の姿はなかった。 始めはそのことがうまく飲み込めなかった。 さらに10メートルくらい歩いて、もう一度振り返って見たがやはり親父はいない。 おおおおおおお。はぐれたんだ!人混みに紛れて消えちまったっ! 私はさらに足早になり、気が付くと走っていた。逃げる逃げる逃げる。振り返っても振り返っても親父の姿はない。
実は私、スピティにいる間にスニーカーをダメにしてしまい、この時はデリーで買ったいぼいぼ付きのビーチサンダルを履いていた。これはいわゆる健康サンダルのようなもので、足の裏がものすごく痛い。歩行用に作られたデザインじゃないんだから当たり前である。靴屋を見かける度に心惹かれるんだけど、親父が追いかけて来そうで怖い。 きょろきょろと周りを見渡し、ショーウィンドウをのぞき込み、ひたすら足早に通りを突き進む私の姿は、はっきり言って挙動不審だったと思う。 しばらくの間、The Mallをひたすら突き進んだ。もはや自分が何処にいるのかはわからない。 このままではどうしようもないので、今度はテキトウに目に付いた路地を下のバス通りまで降りてみることにした。 降りたところはマーケットと宿泊している小さなホテルの中間くらいだった。 「やばー。親父がこの通りに出てくる可能性高いよなあ。」 焦って、さらに足早になる。 道路沿いの小さな商店の前を通り過ぎようとしていたそのとき、急に私を呼び止める声がした。 「ハーイ、マダーム。」 ぎくっとして振り返ると、そこには昨日のバスのドライバーが立っていた。 日が落ち始め、どんどんと暗くなっていくシムラの町でひたすらじじいから逃げていた私は、このとき心底ひとりになったことが 寂しかった。なんで、私はここでこんな事をしているんだ?電話屋に飛び込んで日本にいる誰かに愚痴りたい。 白人の姿は見かけるモノの、アジア人には全く会わない。チベット人だってカラチャクラのまっただ中でこの町にはほとんど残っていない。 「今日は何処のホテルに泊まってるのぉ?」 「言わなーい」 痴漢をしようとしていた男に向かって思わず笑顔で答えていた私。なんかちょっと気が抜けたんだよな~。 まあ、私もそれほどバカでもないので(いや、バカかもしれないが)足を止めたりしなかったが、あのドライバーもまた調子付いちゃったかも。日本人は痴漢しようとしても怒んないぜーって。 次にあいつに出会った方、ごめんなさい。 結局その後、親父に会うことなく、無事にホテルに帰り着いた。 「どこのホテルに泊まってるの?」という問いには「わかんない」と答えていたが、 それは、本当にホテルの名前を知らなかったからだ。 ホテルまで追いかけてくる可能性は全くないはすだが、先ほど交わしたぞっとするような会話を思い出した。
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