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  [概要: デリー、ジャイプール、アグラ、バラナシ ゴールデンルート その7]

 第24話 そして、木っ端みじんの旅(デリー)


 朝着くはずの寝台列車は3時間遅れでデリーに着いた。
 普段の私は列車を降りるとまっすぐメインバザールの安宿に落ち着く。しかし、どうしてどうして、今回は駅まで迎えが来ちゃってるんである。今晩はデリーで一番豪華なホテル、タージマハルホテルに宿泊するのだ。

 「大名旅行にしてあげるよ」と大見得切って、父と母をインド旅行に連れ出した私だが、いつもがいつもなだけに寝台列車の切符を買いに行けば、「2tierじゃなくて、3tierスリーパーでいいかぁ。エアコンはエアコンなんだし」と勝手にランクを一つ下げる。
 車の車種を選択すれば、「ランクルとかのが楽かもしんないけど・・・エアコンついてる車だったら同じだろ」と。
 どうもいちいち考え方がみみっちくなっていけなかった。

 しかし、私もやるときはやる。最後はばばんと、5☆ホテルなのだ!自分の金で泊まるの初めてだ!

 意気込みだけは立派な私だったのだが、ホテルのロビーに一歩入っただけであまりの豪華さに尻込みした。

 3階分くらいある吹き抜け。適度な感覚で並べられたふかふかのソファ。金ぴかのエレベーター。その他、ぴっかぴかの調度品に、清潔でつるつるの大理石の床。そして、それ・・・噴水?うーむ。外の世界とあまりに違いすぎて、同じインドとは思えない。

 その上、ただでさえ浮き足立っているのに、レセプションの女性は流ちょうなクイーンズイングリッシュをしゃべるもんだから、ゆってること全く聞き取れんし。インドリッシュには慣れたのに~。しかも、チェックイン手続きを部屋でやったの初めてです。私。

「チップ、渡さなきゃ。あ、でも、細かいお札ない~」

 おどおどしているうちにボーイは立ち去ってしまうし(ちょっと不満げだったが)、ウェルカムドリンクは思わず「いっ、いりません!」と断ってしまったし、やっぱりあたしには欧米人の様にバケーションをゆったり楽しむのは・・・無理だ。

 高級ホテルに泊まり、高級ショッピング街をぶらつき(日本でもおなじみのブランドショップではなく、インドの高級店街。高いサリーとか売ってる)、有名レストランで無理矢理食事してしまい(腹減ってないのに無理矢理行った。)、最後の晩はものすごい背伸びな一夜となった。

 翌日の日曜日、ホテルを12時にチェックアウトすると、帰国便の飛ぶ21時まで暇をもてあましていた。

 インドの民芸品でも紅茶でも、父母のインド土産を物色できれば良いのだが、めぼしい店はみんな日曜はお休みで、ウィンドーショッピングすらできない。さすがに今から遠くの店まで行く気になれんしな~。

 暇でしょうがなかった私は、「迎えの車と一緒に持っていくから」と言われていた荷物を自分で取りいくという口実を作り、1人メインバザールを訪れた。荷物は、デリーとバラナシで2回ほどお会いしたMさんの物である。

 数年のインド滞在を終え、日本に帰国しようとしていたMさんは、インドで増えてしまった自分の所持品をどう持ち帰ろうか頭をかかえていたという。
 「船便で送れば?」と思うところだが、船便の場合、時間がかかるという以前に、事故で着かないことがままある。

「本なんです。飛行機で運んで成田から自宅に送って頂くだけで構いません。持ち帰って頂けませんか?」

 彼は以前、船便の事故で大事な書籍をなくされた経験があり、どうしても飛行機で持ち帰りたいという。
 ほとんどの本は友人に託したのだが、あと鞄一つ分だけ、どうしても目処が立たない。自分は帰国前に第三国に立ち寄る用事があり、なんとかしてほしい。そういうことだった。

 困った時はお互い様。私は、「別にいいですよ。そのくらい」と何も考えずにMさんの荷物を引き受けた。
 ここで改めて付け加えると、Mさんはデリーで初めてお会いした、知人の知人であり、その知人がすごく信頼している人。
 そして、見た目も会話の雰囲気からも明らかに善人で、「こいつ大丈夫か?」みたいに警戒する要素は一つもなかった。

 その荷物は、帰国の日にでも空港まで持ってきてくれるのかと思いきや、私がパキスタン、インドを回っている最中にデリーを引き払うという(だから、バラナシで会った)

 さすがに私も人の荷物を持って旅する気はさらさらないので、人に預けていたと、こういうワケだ。


 私は、メインバザールに着くと、タバコなど頼まれていた買い物を済まし、とあるゲストハウスへと向かった。荷物はそのゲストハウスの従業員用のロッカールームに預けてある。

「こんにちは、Kさんいますか?」

 いつもの調子で声をかける。パートナーに呼ばれて出てきたKさんは、いつものようにニコニコ愛想笑いをするでもなく、無表情だった。この人、黙ってるとすごい怖い顔なんだよね。

「何しに来たの?」
「え?えっと、暇だったから荷物を自分で取りに来たんだけど・・・」

 刺すような鋭い目線。そして、なに考えてんだか・・・とでも言いたげに顔を左右に振ると、ため息を一つ。

「何で来たの?ちゃんとホテルに持っていくって言ったでしょ?聞いてなかったの?」

 いや、そうだけど、暇だし、取りに来たからといって何が悪いの?突然、怒り出す意味がわからない。
 沈黙。そして、こっちが何か言おうとするとへりくつで遮る。どうも、自分がこうしろと言ったことに従わなかった私が気に入らないようだ。でも、これってそんなに怒られなきゃいけないことか?

 しばらくすると、目の前の机の上に20リットルくらいの黒いザックが乗せられた。 10日前に預けたMさんの本だ。
 机に乗せて、チャックを開けて、二人がかりで荷物を物色し始めた。えええ?なんで人の荷物を勝手に開けてるの?

「ちょっとちょっと、一体何してるの?」

 ブチッっと何かが切れた。もはや限界だったKさんは、 鬼のような形相で私をにらみつけるとこういった。

「何言ってるの?この中にガンジャが入ってたらどうするの?捕まったら刑務所行きだよ!」

 はい?!なんですかそれ?!

 唖然とした。

 正直、私にはそんな発想はこれっぽっちもなかった。だって、本だって言われたし、自分で持ち帰れない理由、いろいろと他を当たったという経緯等々、様々な面から見て、Mさんが何かをたくらんでいるという発想には繋がらない。

「でも、本だし。あなたもMさんはいい人だってゆってたじゃないですか」
「本の間になにか挟まってたらどうするつもり?日本人だから信用するの?」

 次々に浴びせられるとげとげしい言葉。でも、でも、Mさんが私に薬を持ち帰らせるなんて考えられない。

「バラナシの時もそう。Mさんから連絡がないからってどうしてMさんの友達に電話したの? 会ったこともない人に電話するなんて信じられない。その人がいい人だってどうしてわかるの?」

「あなたは、私とは何年のつきあいですか?1年でしょ?その私よりも今回初めて会ったMさんを信用してる。それは、彼が日本人だからです。結局、日本人はインド人のことは信用しない。インドで悪いことする日本人いっぱいいるのに・・・。来るたびに薬やって、持って帰って、日本で売る。そしてまたインドに来る。そんな奴ばっかりだ。」

 手のつけられない位に怒りまくるKさん。しかし、今になって考えると、Kさんは急に切れたのではなく、いろんなことが積み重なっていた。今回の荷物は単に起爆剤だっただけ。

 ガイドブックをぺらぺらめくりながら、「最後の日に暇つぶしにエンポリウムとか行けないかな~」と漏らしたことがあった。
 「あそこは政府の店だから日曜休み」と答えるKさんの言葉をふーんと聞き流し、本をめくれば、確かに"日曜定休"の文字。

「あ、ホントだ。日曜休みって書いてある」

「・・・あなた、私の言うこと信じてなかったの?」

 ええ?これって、信じてるとか信じてないの問題ではないのでは?別に疑って調べたわけではないのだが。
 本のことだって、「持ってきてくれるかわからないから取りに来た」と勘違いもしてるし。・・・暇でごめんよ。


 毎日毎日インドには日本人がやってくる。そして、毎日毎日騙されて泣いている子がいる。
 一度騙されると、インド人みんなが大嫌いになり、何も悪くないのにKさんに「インド人は嫌い」とつっかかる子もいる。腹いせに、あること無いこと人に言いふらす人もいる。彼らをあからさまに見下して、偉そうに振る舞う奴らも少なくない。
 勿論、そんな人たちはごくごく一部。大半の日本人は普通の旅行者だ。

 そして、まれに私のようにリピーターになって、また彼らに世話になる人もでてくる。そして、ほんの少し信頼関係が生まれたと、お互いにそう思っていた。でも、外国人に毎日接する仕事をしている彼でも、いや、彼だからこそ、こういう行き違いが起こった。

 「日本人のことはよくわかってる」と口癖の様に言っていた。でも、ちっともわかっていない。そして、勿論、私もインド人のことをよくわかっていなかった。

 安全な日本でのほほんと生きている私には、麻薬が簡単に手に入る現実や、お金のためにあっさりと人を陥れる人間がいる現実を本当の意味で理解できない。
 そして、今回の状況で誰か他の人が私と同じ立場になったとしても、Mさんを疑おうという気持ちは全く持たないと断言できる。(今はどうあれ)ある意味、日本の社会って、人と人との信頼関係から成り立っているようなところがあるからだ。


 そして、日本人旅行者は、外国にでると、旅先で出会った同胞に親しみを感じる。

 言葉の通じない外国で、言葉が通じる喜び。日本とは違う文化に触れたショックや感動を分かち合う喜び。 その様々な出来事を自分の言葉で話したくて、また、今後の旅の情報交換のために、今、そこで初めて会った人と一緒にご飯を食べに行ったり、時には部屋をシェアする旅行者までいる。

 英語があまり得意ではないことも一つの理由だが、それより、考え方、物の見方が似ている人間といる方が楽しいからね。それに、ぱっと見や話し方で、「あ、この人とは合いそう」ってだいたいわかるし。

「だったら、何で1人で旅行するの?」って言われて、その楽しさを説明したこともある。
 でも、そういうのって、日本人に説明するのも難しいのに、インド人に理解して貰うのは無理な話。彼らの生活環境を考えると、女性が1人でふらふら旅行をするのは考えられないし。

 たったの数回のインド旅行、そして、数人の知り合いがいるだけの私が言うことではないのだが、今回の彼を例にとって見ると、まず、人を疑うところから始まるように思う。

「あの人の言っていることはウソだよ」「絶対に信用するな」「あなたは私が信じられないのか?」

 正しいのはいつも自分。他人は信頼できない。信じてるのは自分の身内だけ。他の人を信じるなんて、あなたは裏切り者。極論を言えば、そういうことじゃないかな。
 プライドもものすごく高い。外国に行ったとか日本製品を持っていることを自慢する反面、日本人に対するコンプレックスもものすごく強い。日本が好きでも日本人が好きでもなんでもなくて、日本という一種のブランドが好き。
 勿論、彼が悪いというのではなく、今までの彼らの置かれている環境がそうだからだ。

 何もしてないのに彼を警戒する日本人がいる。私はそうじゃないと思っていたのにやっぱり同じだった。 いろんなことがたまりに貯まって、今回大爆発したのだと思う。

「もういいよ。あなたは今日、日本に帰るからね。もう関係ない。」

 話をしようにも「もう、話したくない」の一点張り。
 あまりに突然、しかも、全く思いもよらない理由で人に拒絶されたのは初めてで、頭の中は大混乱。
 どうしようも無くなった私は、1人、すごすごとホテルに帰ったのだった。

- インド・パキスタン旅行記:木っ端みじんの旅 目次 -
プロローグ
第1話 相変わらずワルはワル。(その1)
第2話 相変わらずワルはワル。(その2)(
 →【写真】デリーでいろいろ食らう。
第3話 やっぱり、アムリトサルが好き。
 → 【写真】アムリトサルから国境の町アタリへ
第4話 たかが国境。されど国境。
第5話 早い、安い、綺麗・・・でも不快?
第6話 町を歩けば、男にあたる。
 →【写真】何もないけど好きな町。ピンディ
第7話 日本人嫁獲得大作戦?
第8話 旅、此即ち学習
 →【写真】ギルギットを歩く。
第9話 風の谷のナウシカごっこ
第10話 フンザドライブのすすめ
 →【写真】カラコルムハイウェイをゆく その1
第11話 旅の恥は掻き捨てないように
 →【写真】カラコルムハイウェイをゆく その2


第12話 気まぐれスープと謎のシェフ。
 →【写真】カラコルムハイウェイをゆく その3
第13話 山を下りるもまた一苦労
 →【写真】カラコルムハイウェイをゆく その4
 →【写真】カラコルムハイウェイをゆく その5
第14話 ラホーール、おそるべしっ(その1)
第15話 ラホーール、おそるべしっ(その2)
第16話 こんな列車の国境越え
第17話 車掌も密かにワル。
第18話 我ラクダのしりに物思う
第19話 損して得取れって・・・真実よ
第20話 やっぱ、アグラの街はうざい!
第21話 素敵なリキシャワラとの出会い
第22話 カルチャーショック受けちゃった?
第23話 アーユルヴェーダで禿を治そう!
第24話 そして、木っ端みじんの旅
エピローグ

タグ:インド人|インド旅行|インド観光|ケンカ|デリー|外国人|意見の相違|感覚の違い

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