乗り込んだKL行きバス。運転手も車掌もインド系マレー人の親父。浅黒い顔にひげを蓄え、丸々と太った貫禄ある体型は、よく見るインド人親父そのものだ。
しかし、一見普通のこのバス、乗ってみると内装がむちゃくちゃファンシーである。
フロントガラス周りの壁には一面ひまわりの花(勿論、造花)。バックミラーにぶら下がるぬいぐるみ。そして、そのほかにもこれでもかっと言うくらいにぬいぐるみが隙間無く並べられている。完全にバスを私物化しているというか、このバスは本当に運転手の私物なのかもしれないが、しかし、未だかつてこんなバスに乗ったことはない。
よく見ると、フロントガラスのお花の隙間にも手のひらサイズのぬいぐるみがぶら下がってるんだよね。コレがまた。バスの動きに併せて左右に揺れてるし。
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乗り込んでから1時間ほど経ち、満席になったところで、ようやくバスはバターワースを出発した。
「満席になるまで出発しないなんて、ローカルバス?」
と一瞬不安がよぎったが、さすがにローカルバスがKLに行くわけはなく、バスは高速道路に向かって一直線に走っていった。
しかし、この高速道路がくせ者。
マレーシアの中部は以外と起伏が激しい。アロースターからバターワースまでの道のりは、海からそれほど離れていなかったせいか、そういうことにはとんと頭が回らなかった。すーいすいと滞りなく走ったもの。
バターワースを出てからというもの、常にアクセルを全開に踏みっぱなしだった運ちゃん。30分もすると、踏みっぱなしのはずなのに徐々に失速し始め、そのうちにさっき追い抜いたはずのバスに抜かれ、バイクに抜かれ(マレーシアのバイクは排気量が小さい)、そのうち「とっ止まるんじゃないの?」と言うくらいにまで減速した。
坂のぼらねぇ~。
エンジン音だけがグオングオンと空しく響き、その横をぴっかぴかのデラックスバスが「ごめんあそばせ」って気取った感じで、静かに、余裕の表情で我々を追い越していく。
さっきまで「おらおらどけどけ~」と粋がってたのはなんだったのか。エンジン焼き切れそうだし・・・大丈夫か?
ほんの少しの丘を、一生懸命がんばって登り切ると(ご苦労さん)、猛スピードで坂を下りきる。
さっき抜かれたバスを再び抜き返したりして、んもー、なんか燃費悪そう・・・。
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【KL行きバス】
【車内はファンシー】
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やっとの思いでタイピン-イポー間の山を一つ越えると、バスはインターチェンジを降りてしまった。
イポーから先はもっと山が険しい。
「もしやこのバス、この先高速を使えないのか?」
あらぬ疑いをかけてしまったが、実は、このバス、イポー経由のKL行きだった。
イポーでお客の一部を降ろし、待つこと1時間弱。既に日はとっぷりと暮れている。いい加減、これ以上客は来ないと思ったのか、運転手は諦めてバスを動かした。
再び壊れんばかりの轟音をたてながら坂を登る我がバス。
しかし、一度上まであがってしまうと、その先はそれほどの高低差がないようで、思ったよりは走っていた。
が、問題は別に起こった。交通事故である。
高速道路は他に逃げ道がないだけに、事故が起これば余計に渋滞する。当たり前だがこれは日本だけの話ではない。このとき既にクアラルンプールまで100キロも離れてなかったように思う。進まないけど、今更行き先も手段も変えられない。
渋滞にはまってからというもの、車掌の携帯は鳴りっぱなしで、ベルが鳴るたびに最後部にやってきてごそごそ話をしにくる。どうも、会社からの電話らしいが、わざわざ後ろでする必要があるんかいな。(私の席は後ろから2番目)
渋滞にはまること1時間余り。先の先でぺしゃんこにつぶれた2台の乗用車の姿を確認すると、バスは少しずつするすると走り出し、「ようやく流れた~」と思ったら、左手に現れたサービスエリアに入った。
乗客は誰も席を立たないし、トイレにもどこにも行かなかった。それでもバスはいつまでもいつまでも停車している。
そのうちにめがねをかけた中国系の親父が車掌に向かって怒鳴りつけ始め、車掌と親父の大げんかが始まった。
言葉のわからない私にはなんのことやら。親父が怒る理由も、乗客を怒らせてまでここにバスを止めておく理由もさっぱり検討が着かない。
ただし、一日中移動しっぱなしで疲れ切っていただけに、さっさとKLに向かってほしい気持ちだけは親父と同じで、「親父、行け!負けるな!車掌を言い負かせ!」と心の中で応援させて貰う。
停車してから30分ほど経過した頃、隣にするっと1台のバスが止まった。
「このバスも休憩?もしかして、この先もまた事故でもあるのかな~」
他人事の様に眺めていると、隣のバスの15人ほどの乗客は全員バスから降りた。そして、あ、あれ?このバスに乗り込んでくるんですけど・・・。はぁ?
隣のバスの客が全て乗り終えると、バスは再び路線に復帰し滞りなく走り始めた。
どうも事故の遅れを取り戻すべく、KL行きの2台のバスを途中で合流させたらしい。空っぽになった向こうのバスは、そのまま違う町に向かったのだと思う。
車掌は会社に「バスを待ってろ」と言われ、あのめがねの親父は、「いい加減、KLに向かって走れ!ただでさえ遅れてるんだ!」と文句を言っていたと、こういうワケだね。携帯で収容可能な人数とか、走ってる場所とか、いろいろ尋問されてたんだろう。いやはや。
走り出したら後は早かった。バスは15分程で高速を降り、あっという間にKLの町に着いた。
地元の人なら地理もわかる。KLの目前で30分も停められれば、そりゃ、苛つくわ。既に深夜の0時を回って眠いだろうし、少なくとも2時間は遅れてる。
深夜0時を回って、初めての町に放り出されたこっちもたまらない。タクシーに乗り込み、当たりを着けた宿を次々はしご。数件目の中級ホテルでようやく空室を見つけ、荷を降ろして、そのまま深夜の屋台に繰り出した(だって、ご飯食べてなかった)。
サトゥーンのホテルを出たのは朝7時。
船を2つにバス2つ(更にタクシーも2回乗ったな)。およそ17時間もの間、ひたすら移動を続け、日付が変わってようやくたどり着いたKL。
くくーーっと飲み干したビールの味が・・・染みました。
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